第8話 裏切りのデロイア

(Na.)デロイア州誕生、自治権確立とデロイアの動乱は理想的に収束したかにみえたが、その実、根本的な解決を避けた政治的取引により、多くの抵抗ゲリラを生んだ

フォン(TV)「ゆえに、彼らの行動は地球連邦を構成する州として昇格したデロイアの自治と平和を脅かすものとして、絶対に許すことはできない
クリン「部屋の中でちぢこまっているのが、ぼくには一番似合ってるんだ
クリン「はっ
ラルターフ「入るぞ
ラルターフ「さあ支度してわしと付き合え
クリン「どこへ?
ラルターフ「きまっとるだろ。ゲリラが立てこもってやりあってるところさ
クリン「ええっ
ラルターフ「なあクリン君。きみはもっと現実を直視しないとならん。でなければ君の甘さは死ぬまで治らんだろうな
クリン「…

裏切りのデロイア

フォン「わが州政府と、デロイア人民に対する重大な挑戦と受け止める。全デロイア人の理解と協力を求めるものである
ロッキー「ふん。なにが重大な挑戦だ。ドナンカシムの犬が」
ロッキー「「くだらねえ。なにがデロイアの独立だ。結局、てめえが州政府の親玉におさまっただけじゃねえか」

マルーク「ロッキー、そこの帳簿とってくれ」
ロッキー「え?
マルーク「ロッキー

ロッキー「これでいいのかい
ロッキー「ほらよ
ロッキー「相も変わらずだな。大した銭にもならねえのに。腹立たねえのかい
ロッキー「ね、ねえさん
変わらねえのはお前もおんなじだろ。なんのために地球から帰ってきたんだ
ロッキー「ちっとはデロイアも変わるかと思ってさ
オリザ「…
ロッキー「フォンシュタインのやつにだまされちまったもんな
オリザ「めったなこといわないでよ。まわりにはゲリラ狩りの憲兵隊がうろうろしてるんだから
オリザ「市内じゃ体制に不服な兵隊が立てこもって戦闘中だっていうしね
ロッキー「下手に独立だなんていった大佐が悪いんだよ
マルーク「ロッキー。俺たちはこれからも分相応にコツコツやるしかねえんだ。儲けが薄くてもな。おまえ、ここを手伝う気があるのか
ロッキー「さあな
マルーク「めったなまねはするなよ
ロッキー「みんなに顔見せさ。地球から帰ったこの顔を見せにな。じゃな
マルーク「ロッキー
ロッキー「おっ

ロッキー「キャナリー

ロッキー「キャナリー!
キャナリー「ロッキー
ロッキー「キャナリー

サングラスの隊長「ディオル軍曹。ほかの兵も抵抗をやめて我々に投降しろ。お前らに勝ち目はない。デロイアの平和を脅かそうとしているお前らの行動は、デロイア州政府に対する反乱だ。武器を捨てて投稿しろ
ディオル「オレはディオルだ。俺たちを攻撃する兄弟たち、銃を納めろ。お前らが狙うのは俺たちじゃない。フォンシュタインだ。デロイア州に変わったからと言って、150年にわたるデロイア人の苦しみが消えるか。やつは俺たちに独立を約束したのに、州政府代表の地位に目がくらんで、俺たちを裏切ったのだ

兵士「おっ
兵士「おお

ディオル「俺たちは騙されない。俺たちはデロイアのための戦いをやめないぞ

ジープの兵士「道を開けろ

検問の兵士「とまれ
検問の兵士「立ち入り禁止だ
検問の兵士「とまれ
検問の兵士「うわっ
検問の兵士「くそっ

サングラスの隊長「なんだ
兵士「デオルの妹です
サングラスの隊長「ほう。デオル軍曹。妹が来たぞ。これが最後のチャンスだ
サングラスの隊長「兄を助けたかったら投降するよう説得しろ
ロッキー「デオル
ロッキー「デオルが反乱
ディオル「キャナリー、おれは登校しない。おれたちはデロイアがほんとうに独立すると思ったんだ。俺たちは裏切られた
ディオル「キャナリー、おれの言葉を聞け。フォンシュタインは裏切り者だ。デロイアを州昇格という名のもとに、地球人に、ドナンカシムに売り渡したんだ

サングラスの隊長「どうした早くせんか
サングラスの隊長「きさま、きいておらんのか。兄の命を助けたくはないのか
キャナリー「兄さん負けちゃダメよ、デロイアはデロイア人の物
サングラスの隊長「きさま、なにをいうか。たくこの小娘が
サングラスの隊長「「撃てい

ラルターフ「無駄だ、無駄な戦いだ。フォンシュタインにゲリラ狩りの口実を与えるだけだ

(デューイの機銃掃射からミサイル発射。すでに砲塔が吹き飛んだクラブガンナーは爆発)

キャナリー「兄さん
キャナリー「兄さーん

フォン「そうか、ご苦労

兵士「デオル並びにほかの乗員の遺体をただ今検証中でありますが、損傷がひどくて
サングラスの隊長「無駄だ。おそらくとけちまってるだろう。全員引きあげるとつたえろ
兵士「はっ
通信兵「補給隊か。(聞き取れず)追討隊だ。車両に若干の損傷が出てる。1小隊ほど回してくれ
オペレーターの女性「了解。損傷した車両の形式がわかれば知らせよ

ラルターフ「クリン引き上げるぞ

キャナリー「…」

ロッキー(回想)「やーいやーい
キャナリー(回想)「やんかえして。かえして
ロッキー(回想)「やだね、べーだ
ディオル(回想)「なあロッキー、なんで弱い者いじめするんだよ。お前男だろ
ロッキー(回想)「ほらほら、(不明)、かっこつけるな。基本を身体に叩き込め。あーっ、あっ
ロッキー(回想)「ははははは
ディオル(回想)「ははははは
ディオル(回想)「ロッキー、地球へ行くんだってな
ロッキー(回想)「うん
ディオル(回想)「地球に行っても、このデロイアの海と空を忘れないでくれよ
ロッキー(回想)「ああ

キャナリー「あの日ね、フォンシュタインのところに自分から志願していったの。これでデロイアが独立できるといって
ロッキー「はっ
ロッキー「ドナン・カシムの息子だ
クリン「すまない、ロッキー
ロッキー「いうな
クリン「ロッキー
ロッキー「地球の豚野郎

アイキャッチ

ドナン「草案の二条を削除するか。州政府の権限はできるだけ抑えた方がいいな
ラコック「閣下のお好きなように。手腕のほどは信頼申し上げております
ドナン「皮肉かね
ドナン「ん?
レーク「お呼びですか
ドナン「ああ、キミの意見も聞こうと思ってな
レーク「これはデロイア州の自治法
ドナン「ああ、我々が作ってはいかんということはないからな。もっとも発布するのはフォンシュタインだがね。キミにはいずれ連邦軍のトップに座ってもらうつもりでいる。その立場で自治法をチェックしてもらいたい
クリン「父さんにあうんだ!どいてください
警備員「まってください
クリン「おねがいだ
クリン「お願いします
警備員「困りますお待ちください
ドナン「クリン
クリン「父さん
ラコック「クリンさん
クリン「いつまでこんな真似をさせるんです。大佐に馬鹿な真似はやめるように申し入れてください
ドナン「クリン、どうしたのだ。顔の傷
クリン「ごまかさないでください
ドナン「クリン私はいま執務中なのだ。本来なら追い返して当然だが5分間だけお前につきあってやる

ドナン「地球へはいつ戻るつもりだ
ドナン「クリン、お前と議論をしてもはじまんが、政治というものは最大多数の反映を実現するために行うものとわしは信じている
クリン「だからゲリラ狩りや反対する連中をたたいてもいいというのですか
ドナン「やむをえんだろうな
クリン「父さん
ドナン「やむを得んといったのは、いつの時代にも一つの政治に対する不満分子は必ず存在する。時の政府と抗争を繰り返してきたという歴史だ。
クリン「しかし、歴史がそうだからといって、繰り返さなければならない理由はないはずです
ドナン「おまえは歴史というものを理解していないな。ではどうすればいいと思うのだ
クリン「かれらが言っているように独立を認めてやるのです
ドナン「なぜ。デロイア人も地球人も同じ仲間だ。同じ地球人だ。さらにつけくわえれば、今デロイアは連邦を構成する州として自治も認められた。なのになぜ独立しなければならんのだ
クリン「つまり…それを願っている者たちがいるからです
ドナン「なぜ願うのだ
ドナン「かれらが全てのデロイア人の意思を代表しているわけではなかろう
クリン「ではこれからも大佐に不満分子の摘発やゲリラ狩りをやらせる気ですか
ドナン「わしがやらせているのではない。州政府の代表として大佐がやっているのだ。時間だ
クリン「父さんは!父さん自身はどう思っているんです
ドナン「多数の者たちのためには少数の犠牲はやむを得ん
クリン「父さん、そう思っているかぎりこの戦いは終わらない。かれらは新型のコンバットアーマーまで用意して戦いに望む気でいるんです

クリン「ばかな…少数の犠牲はやむを得ないなんて
クリン「ちがう、なにかがちがっている
クリン「どこが…どこがちがうんだ

ラコック「お出になりますか。大佐が礼を言いたいそうです
ドナン「ん?

クリン「腹が減ってる。なにか食べるものないかな
バックス「いいとも。奥で食べな
クリン「ありがとう

サマリン「どうぞ
サマリン「おおクリン君。何の風の吹き回しだ

サマリン「うむ、君の親父さんはそう言ってたのか。いや、人間ってやつは元来意地汚くできてるものらしいな。こんなところに隠れていても一人前に腹だけは減る。食べんか
クリン「い、いえ、結構です
サマリン「わしが君の親父なら、やはり同じようなことを言っただろうな。何年ものだ。これは寝かし方がたらんようだ。元来政治とはそういうものだ。つまり、だれがたらふく食べられるかということにつきている。フォンシュタインややつらのやりくちと、デロイア独立を目指す我々のやり方とではどちらがデロイア人に多くの利益をもたらすかということだ
クリン「でもデロイア人も地球人も同じ仲間では
サマリン「それは詭弁だ。同じブドウから作ってもワインの味がちがうようにな。われわれは地球にサービスしすぎた
サマリン「ああだがデロイアが独立して、ふーデロイアの政府ができたとして、ああ全てのデロイア人が幸せになれるかというとこれまた違う。そこには必ずまた反対意見が出る
サマリン「人間は悲しいものだ。安住の地を求めながら、永遠にそれを手にすることができずにいる。ま、だからこそ人類は進歩するともいえるか。はは。わしがめざしているのは、そういうとき少数の意見であっても多数の中に十分反映できる社会を作るということだ。このコーヒーと砂糖のようにな。大いなる試練だがそうなってはじめて人類は政治を持ったといえるだろう。百人のために二人を切りすてずともすむということだ
サマリン「ん?
サマリン「なにダグラムが
サマリン「わかった。パイロットならここにいる。すぐつれてゆく
サマリン「ダグラムが完成したそうだ。君に試運転のパイロットを頼みたい
クリン「ぼくはドナン・カシムの息子で、連邦軍の
サマリン「かまわん。君はいずれ親とも連邦軍とも別れて、我々と行動を共にするようになる
クリン「どうしてそんなことが
サマリン「わしはな、自分の目を信じている。今の君は落ち着き場所を求めてさまよっている

サマリン「いやみんなご苦労だった。約束通りパイロットを連れてきた
背広の男「彼を?彼を乗せる気ですか
サマリン「いかんか?いずれ我々の仲間になるはずだ
クリン「はっ
サマリン「おっ
ゲリラ「連邦軍だ!

サマリン「ダグラムの設計図を処分しろ!
背広の男「処分?処分とは博士
サマリン「焼け!やつらの手にわたしてはならん

デスタン「決心は変わらないだろうな
キャナリー「変わらないわ。兄さんのかたきは必ず取ってやるつもり
ロッキー「おれもだ。デロイアから地球人を追い払うまで徹底的にやってやる
デスタン「よし、サマリン博士の許可をもらってやる。そうすればお前らはりっぱな仲間だ。

デスタン「おっ
キャナリー「あっ ?
デスタン「おお

ゲリラ「うわ
ゲリラ「うわーっ

サマリン「どうしてこのアジトがフォンシュタインに漏れたんだ。念のために聞くが、誰にも話したことはなかっただろうな
クリン「!

クリン(回想)(かれらは、新型コンバットアーマーまで用意して戦いに臨む気でいるんです)

クリン「ま、まさか父さんが。そ、そんな馬鹿な
サマリン「うわっ
サマリン「うお
クリン「博士

サマリン「く、来るな。逃げろ。逃げのびるんだ
クリン「博士
サマリン「早く

サマリン(回想)(約束通りパイロットを連れてきた。いずれ、我々の仲間になるはずだ)

クリン「ダグラムは

クリン「畜生

クリン「おあーっ

クリン「卑怯な。父さんに間違いない。自分たちのためには僕まで利用するのか
ロッキー「クリン
クリン「はっ
ロッキー「お前が密告したのか
クリン「ぼくは密告などしない
ロッキー「サマリン博士はどうした
クリン「撃たれて、連邦軍に
ロッキー「くそー、博士まで売ってしまったのか
クリン「ちがう、ぼくじゃない
ロッキー「ゆるさねえ!デオルを殺し博士を殺し、ダグラムまで奪いやがった。なにも脳がねえくせに一人前に密告だけはしやがる。死ね
クリン「ロッキー待ってくれ、ぼくは身の証を立てて戻ってくる

次回予告

新鋭コンバットアーマー・ダグラムを巡り、植民の星に父と子の愛憎が渦巻く。 目には目を、歯には歯を。力こそが正義か。 次回「ダグラム奪回」
Not even justice, I want to get truth.
真実は見えるか。