第3話 デロイアの動乱

【メドール州連邦軍士官学校】
クリン 「ふたつめ、撃破!」
声 「クリン!敵は右に回りこんだぞ!」
クリン 「これもいただき!」
クリン 「はっ」
バスク(回想) 「うわああああああ!」
クリン 「ああっ…」
クリン 「うわっ!」
教官 「どうした、カシム候補生」
教官 「バカモノ!もっとチームワークを大事にせい!実戦だったら貴様ひとりのために1中隊は全滅だぞ」
「はい、こちら操縦訓練実習室」
「!」
教官 「おい、クリン・カシム候補生!」
クリン 「はっ」
クリン 「な、なんでしょうか」
教官 「すぐうちへもどれ」
クリン 「はあ?」
教官 「父上がデロイアで行方不明になられたらしい」
クリン 「ゆ、行方不明」
教官 「会議場に武装した一団が乱入してきて、各州の代表とともに連れ去られたと秘書官のラコック氏から連絡があったそうだ。それ以外のことは、ここではわからん」

(Na)「デロイアの動乱」
サラ 「あなた、お気をつけて」
レーク 「ああ」
レーク 「それじゃ行ってきます」
ラビン 「たのむぞ」
クリン 「母さん!」
フィナ 「クリン」
クリン 「ほんとうなんですか、父さんが行方不明になったって」
ラビン 「学校のほうはどうしたんだ」
クリン 「それどころじゃないでしょ!」
サラ 「あたしが知らせたの」
ロイル 「それじゃ私は会社へ戻る」
ラビン 「ああ、途中まで一緒に行こう」
ロイル 「ああ」
ラビン 「私もオフィスに来客を待たせてあるんだ」
クリン 「待ってよ」
クリン 「こんなとき、仕事だなんていっていられるの!?」
ラビン 「どういう意味だ」
クリン 「父さんが行方不明になったんだぞ!すぐ現地に飛ぶとか、考えないの!?」
ロイル 「ん?レークが捜索隊の指揮官として現地へ向かう。彼に任せとけばいい」
クリン 「レーク兄さんは別じゃないか」
子供 「うわーん」
クリン 「血がつながっているものが、なんにもしないっていうのか?」
サラ 「おちつきなさいクリン」
クリン 「ぼくは行くぞ。デロイア星にいって父さんを探す!」
ラビン 「クリン!」
ロイル 「素人がじたばたしても仕方がないだろ。プロにまかせておけ」
クリン 「ぼくはぼくでやるさ!」
サラ 「クリン… クリン待ちなさい」
ラビン 「心配しなくていい。民間人を連れていくほど軍隊はあまくない」

クリン (父さんは三日前、空港で狙われた。そしてまた…。なぜなんだ)

兵士 「ボイド大尉。ソルティック五機、および武器・弾薬の搭載、完了しました」
レーク 「わかった。ご苦労」
クリン 「レークにいさーん」
レーク 「クリンくん」
クリン 「デロイアへ連れて行ってください」
レーク 「君を?」
クリン 「乗せてくれますね」
レーク 「だめだ。たとえ君でもな」
クリン 「ぼく一人くらいどうにでもなるでしょ」
レーク 「これは練習船じゃないんだ」
サングラスの兵士 「大尉、急いでください」
レーク 「悪く思わんでくれ。なにかわかりしだいすぐ連絡する」
クリン 「レーク兄さん」

店員 「デロイア行きでしたね。エコノミーなら空席がございます」
クリン 「それ一枚」
店員 「お支払い方法ですが」
クリン 「クレジットで」
店員 「かしこまりました。お客さま、カードは」
クリン 「今持ってないんだ」
店員 「は?」
クリン 「ぼくの名はクリン・カシム」
店員 「お名前だけでは…」
クリン 「市民ナンバー・72ダッシュ18287!」
店員 「決してうたがうわけではございませんが、カードがございませんと…」
店員 「そうだわ。こうなさっては。ご自宅にお電話を」
クリン 「自宅?ダメだ」
店員 「なにかご都合でも…」
クリン 「とにかくその切符はぼくが買う!誰にも売らないでくれよ」
店員 「あっ、お客さま!」
ラルターフ 「ああよろしいかな。電話で予約しておいたラルターフだ」
店員 「あっ、少々お待ちを」

デイジー 「もしもし」
クリン 「デイジーか。いてくれて助かった。頼みがある。まとまった金がいるんだ。すぐにだ。」
デイジー 「いまどこにいるの? …わかったわ。五分待ってて」
クリン 「悪いな」

店員 「お待たせいたしました。中に空港までのバスのチケットも入っております」
デイジー 「あきれた。お金もなしにデロイアへ行く気だったの?」
クリン 「ありがとう」
店員 「よい休暇を」
デイジー 「クリン!」
デイジー 「おばさまやお兄様はこのことご存知なの?」
クリン 「言えば行くなというに決まってるさ」
デイジー 「でも黙って行くなんてよくないわ」
クリン 「あのバイクだけど、うちに届けといてくれよ」
デイジー 「え?」
「あたしが?」

アナウンス 「空港行きをご利用のお客さまは二番フレームの23番にご乗車になってお待ちください」
デイジー 「クリン、あなたっていったい何を考えているの?どうしてもっとみんなとうまくやらないの。以前のあなたはこんなじゃなかったわ。お兄さんたちとも仲良くやってたし」
「二年ほど前かしら。兵学校に入ったあたりからあなたは変わったわ。そのころからよ。私にもあなたがわからなくなったのは」
クリン 「まだ3分ある」
デイジー 「まじめに聞いて!」
「あたし、クリンのこと知りたいの。もっと、もっと」
クリン 「えっ?」
アナウンス 「空港行き23便ご利用のお客様はお急ぎください。まもなく発車します」
デイジー 「言いたくないのなら、それでもいいわ。あなたにとっては、こどものときのまんまのあたしですものね」
クリン 「行くよ」
デイジー 「クリン!なぜ家に黙ってまで行くの?」
クリン 「ぼくにも、よく自分のことはわからないんだ。」
デイジー 「クリン…」
クリン 「兄さんたちは変わってしまった。…いや、ぼくが変わったのかもしれない」
デイジー 「クリン」
クリン 「必ず父さんを救い出してみせる。借りた旅費は必ず返す」
「むこうに着いたころ、母さんに知らせといてくれ!」

【ワーム・ホール・ポート(宇宙空港)】
アナウンス 「本日はメドール航空をご利用くださいましてありがとうございました。メドール発第71便ワームホールポート行き、定刻到着でございます。本船はただいまよりポートAブロック12番ホームに横付けされます。なお、デロイアにお乗りかえの方はBブロックで通関手続きをお願いします。お疲れ様でした」

アナウンス 「アテンションプリーズ、アテンションプリーズ、スペースアロー41便は3番ホームから出発です。ご乗船してお待ちください」

ラルターフ 「ああちょっと」
乗務員 「はい」
「どうぞ」
「ありがとうございました」

ラルターフ 「とるものもとりあえず向こうに行く君の気持ちはわかるな。まあ私にとってドナン・カシムは興味ある一政治家。でも君にとっては父親だ」
クリン 「あなたは?」
ラルターフ 「これさ」
クリン 「新聞記者」
ラルターフ 「APU通信のね。君がドナン・カシムの息子さんだってことはトラベルセンターで知った。君に関してほかのことは知らんがね」

アナウンス 「これよりワームホール入り口に移動します。もう一度シートベルトのご確認をお願いいたします。指示あるまでは絶対に席をお立ちにならないよう、かさねてお願いいたします。デロイア星までの所要時間は52時間25分でございます」

(アイキャッチ)

【デロイア星】
アナウンス 「お疲れ様でした。ご到着のお客様にご案内いたします。本日、北極空港から先への便は一部を除き空路閉鎖のため欠航しておりますのでご注意ください。なお、くわしいことは北極空港でお問い合わせください」

【デロイア星北極空港】
ナナシ 「くかー」
ビリー 「どうするよロッキー。もう10時間もここで足止めだぜ」
ロッキー 「やばい情勢になっているのは、首都のカーディナルだ。だったら、このサンドレア空港まででも行ってくれりゃいいんだ。そうすりゃあよ、あとは鉄道を利用してもカーディナルには帰れる」
ビリー 「あーあ冗談じゃねえよなあ。バイク売っぱらってまで金作ってご帰還したってのによ」
ロッキー 「まったくな」

クリン 「あっ」
クリン 「ロッキー」
クリン 「ロッキー!」
ロッキー 「クリン」
クリン 「帰ってきたのか」
ビリー 「地球にいてもいいことないんでね」
ロッキー 「おまえは何しに来たんだ」
クリン 「父さんが武装した連中に連れ去られたんだ」
ロッキー 「おまえの親父さんて、ドナン・カシムなんだってな」
ビリー 「いいところのおぼっちゃんなんだってな」
クリン 「…」
ロッキー 「デロイア人は地球の、それも政治家と聞くと虫唾が走るんだ」
クリン 「ロッキー…」
クリン 「またゆっくり会いたいな。じゃ」
ロッキー 「達者でな」
クリン 「ああ」

レーク 「すると首都カーディナルはいまや完全に武力で制圧されているというのかね」
ラコック 「はい、大尉。どんな組織が動いているのかはよくわかりませんが、植民地行政府施設はすべて連中に抑えられております」
レーク 「ふむ」
ラコック 「ドナン・カシムをはじめ地球代表が監禁されているのはおそらく、それらの施設でしょう」
レーク 「なるほど、よくわかった。とにかく、あなただけでも無事でよかった」
ラコック 「ありがとうございます」
レーク 「まずはここの司令に挨拶してこよう」
ラコック 「あ、ご案内しましょう」

ラコック 「北極駐屯基地司令、ブレナー大佐です」
レーク 「特別捜索隊隊長ボイド大尉です」
ブレナー 「やあ、とんだことになってしまったな。さぞ心配だろう」
レーク 「なにかとお手数をかけると思いますが、よろしくお願いいたします」
ブレナー 「われわれはデロイアの玄関口であるこの北極空港を守るのが主な任務だが、出来る限りの協力は惜しまないつもりだ」
レーク 「ありがとうございます」
ブレナー 「ああ、健闘を祈るぞ」
レーク 「ところで司令、このデロイアでソルティック以上の高性能コンバットアーマーがひそかに作られてるとのうわさを耳にしますが、確かな情報でしょうか」
ブレナー 「ああ、そのことかね。実はわれわれも調べてるんだが、今のところ何の実態もつかめておらん」
レーク 「そうですか」
ラコック 「はい、司令室です。なに?クリン君?」
レーク 「えっ?」
ラコック 「下の受付にきているそうですが、どうします?」

クリン 「兄さん!」
レーク 「クリンくん」
「ほんとに来ちまったのか」
クリン 「迷惑はかけませんよ」
レーク 「送り返したくてもできんさ。ワームポートも軍用を除き閉鎖するらしいからな」
ラコック 「軍ルートで送り返す手はありますが」
レーク 「いまさら何を言ってもしかたない。とにかく僕のそばにいるんだ。いいな」
スピーカーの声 「識別不明の飛行物体3機、急速接近中!識別不明の飛行物体3機、急速接近中!」

クリン 「レーク兄さん!」
レーク 「コンバットアーマー!」
ラコック 「ボイド大尉!これはまずいことになりましたな」
レーク 「っ!」
クリン 「レーク兄さん」
レーク 「聞こえるか!こちらボイド大尉。格納庫につないでくれ」
整備兵 「こちら整備班!」
レーク 「ボイド大尉だ!ソルティックを格納庫に運んで、すぐ組み立てるんだ!」
整備兵 「ただいま進行中です!」
レーク 「よーし、いいぞ!急げ!以上だ!」
整備兵 「了解!」

クリン 「兄さん危ない!」
レーク 「ええい」
「くそう、おどかしやがって」
クリン 「なぜこんなに接近してくるまでキャッチできなかったんです!?」
レーク 「そうかちくしょう、この時を待ってたのか!」
クリン 「なんのことです」
レーク 「デロイアは3ヶ月ほど前からXネブラの中に入ったんだ!」
クリン 「Xネブラ?」
レーク 「未観測要素の多い帯電性ガス星雲の一種だ。こいつはやっかいなことにあらゆるコンピューターの性能を極度に低下させやがるんだ」
クリン 「しかし軍は!そんなこと前もって知ってたんでしょう!?」
ラコック 「ああ、ところが、デロイアで反乱が起きることまでは読めなかったんですよ」
レーク 「伏せろ!」

ラコック 「それだけではありません」
クリン 「えっ?」
ラコック 「このデロイア星はご存知の通り二重太陽系で、電離層の乱れから交信電波の届く距離も限られてくるんですよ。ここでは接近戦で戦うしかないんです」
レーク 「しまった」
「やつら格納庫を狙う気だ」
クリン 「レーク兄さん!」
「レークにいさーん!」
ラコック 「クリンくん!危険だ、戻っていらっしゃい」
「よしなさいクリンくん」
「まったく、たいした高校生だよ」

レーク 「急げ!」
「うおっ」
レーク 「しまった…くそっ」
「おい、しっかりしろ」
ダーク 「くそったれめ!」
レーク 「! ダーク、動けるか?」
ダーク 「敵は?」
レーク 「四本足2機とヘリ3機だ。旧タイプとはいえてごわいぞ」
ダーク 「まかせといてください。いただいたプレゼントは倍にして返さなくちゃいけませんからね」
ダーク 「行きまーす!」
レーク 「頼むぞ」
ダーク 「いそげ!出すぞ!」
整備兵 「すぐ終わります」
ダーク 「どうした」
整備兵 「パワーがまだ十分ではありません」
ダーク 「よしわかった!はやく下におりろ!」
整備兵 「しかし!」
ダーク 「はやく降りんか!」
整備兵 「はっ!」
ダーク 「ポンコツめ!」
「出すぞ!」

レーク 「ダーク!」
レーク 「こいつ!」
ダーク 「もらった!」
ダーク 「!」
ダーク 「しまった、弾が出ない!」

レーク 「ダーク!何をしてる!撃て!」
ダーク 「えーい、このっ!」

レーク 「やったぞ!」
クリン 「すごいや!」
ダーク 「おい、弾が出ないぞ!代わりのガンを用意してくれ!」
整備兵 「はい!」
通信兵 「ヘリ2機、一時の方向!」
ダーク 「なにっ」

レーク 「おおっ」

ダーク 「残りの4本足はどこだ!」
通信兵 「3時の方向!」
ダーク 「ぐわあっ!」

ダーク 「代わりのガンはどうした!くそったれめ!」
整備兵 「準備してます!」
ダーク 「ようし、待ってる」
レーク 「ダーク、逃げろ!」
レーク 「どこへ行くクリン!戻れクリーン!」

ダーク 「それ来た!」

ダーク 「よーし、これでいつでも撃てるぞ!」

ダーク 「通信兵!だれだあのバカは!」
通信兵 「わかりません!」
ダーク 「おい、ほんとにやっちまったぞ。あきれたもんだ」
ダーク 「おーい、まだやるのか!?」
ダーク 「死ねい!」

クリン 「レーク兄さん」
レーク 「クリンくん!これは遊びとは違うんだ。以後勝手なことはしないでくれたまえ」
クリン 「すみません」
レーク 「腕をどうした」
クリン 「いえ…」
レーク 「しかし君ってやつは…」

ラコック 「フン、我が連邦軍も予想外にやるじゃないか。それにしてもあの坊や… ん? はじまるな」
兵士 「ボイド大尉!」
レーク 「どうした!」
兵士 「連中の組織が判明いたしました。デロイア独立正規軍と名乗っています」
レーク 「デロイア独立正規軍?」
兵士 「はっ、これから独立宣言の声明文を出す模様です」
クリン 「独立?」

フォン 「親愛なるデロイアの同胞諸君。われわれは立ち上がった。150年に及ぶ屈辱的な地球支配を打ち破り、自らの力で新しい歴史を刻む日が来たのだ。今日、この場で独立を宣言する」
「われわれは連邦評議会に要求する。ひとつ、デロイア植民地行政府を直ちに撤廃し、立法・行政・司法の権限をわれわれに(聞き取り不明)すこと」
兵士 「こいつは8軍のフォン・シュタイン大佐じゃないか!」
フォン 「ふたつ、デロイアに駐屯する連邦軍の即時全面面引き上げ。以上を要求する」
レーク 「電波をここまで送るとは、そうとう大がかりな中継基地があるな。反乱軍とはいえかなりの組織だ」
ラルターフ 「…ひっかかるな」
クリン 「え?」
ラルターフ 「今のフォン・シュタインという男さ」
フォン 「かさねて要求する。デロイア殖民地行政府をただちに…」

次回予告

動乱の星デロイア。 燃える大地、叫ぶ風、唸る空。
遥かなる父を求めて、獅子の血は燃える。
次回「実戦のコクピット」
Not justice, I want to get truth. 真実は見えるか。