XH200 ダグラム・イミテイト(ソルティック社内性能実証試験用)
SC152に勃発したデロイア独立戦争は500余日にもおよび、SC154に至って和平が成立した。これによりデロイアは地球連邦の第八番目の州から主権国家へと変わった。この戦争では、連邦軍の新ドクトリンの中でもっとも有効視されていたコンバットアーマー運用の基礎が確立した。技術史においては、二足歩行型の第二世代、Xネブラ星雲の影響を脱した第三世代のコンバットアーマーが実用化された。
コンバットアーマーの戦闘記録のうち特筆すべきなのはダグラムの戦果である。デロイアの気候に特化した局地専用の機体であるダグラムは、史上初のXネブラ対応型のコンバットアーマーである。強力なリニアガンと対リニア装甲を持ち、コンピューターの演算能力も劣化しないダグラムはデロイアでは無敵の存在だった。戦争の初期において、まともな機甲戦力を持たなかった解放軍がまがりなりにも第八軍と互角に戦えたのはダグラムによるところが大きい。もっとも第八軍に戦争初期に配備されていたのは旧式のF44シリーズであり、装甲車輌もインステッド装甲車のバリエーションのみだったのだが。
当時最新型といわれ連邦軍に配備されていた史上初の二足歩行兵器、ソルティック社のH8型「ラウンドフェイサー」は高い汎用性をもった傑作機であるが、デロイアの気候・風土には特化できずダグラムの前に惨敗を喫した。ただし、H8は旧式のコンバットアーマー戦では高い戦果を上げており、また地球での運用を念頭において開発された機種であるため、デロイアでの敗北を性能の差というのは酷であろう。事実、リニアガンとXネブラに対応した新型機のH8RF「コーチマ・スペシャル」はスタンレー高原でダグラムをあわやのところまで追い詰めた。
H8型の成功により多数の受注を受けたソルティック社だが、次期主力機種の開発に手間取り、アビテート社のT10シリーズにその座を奪われてしまった。H8RFは攻撃力・機動力に優れていたが防御力に難があった。H128型「ビッグフット」は高性能であったが、開発の遅れと整備性が悪かったため主力ではなく寒冷地専用機として採用され、多くの受注は見込めなかった。
そこでソルティック社は主力コンバットアーマーメーカーとしての座を取り返すべく、独自に社内での実験機製作を行って次期主力機種の開発にフィードバックさせることにした。
それが「ダグラム」の製作であった…。
製作過程
機体の説明
しかしいくら参考にしたとはいえ、デロイア独立の象徴であるダグラムを解体するわけにはいかず、ほとんどの部分は推測から作らなければならなかった。そのため各部にソルティック社の既存製品が使われている。 本機はソルティック社が開発した「ダグラム」だと言えよう。
機体の性能
本機には試作機であること示すXの記号がつけられている。社内で命名されたコードが200番台だというのは、いままでの100番台を越えて新たなシリーズを構築するのだというソルティック社の意気込みを示すものであろう。
ダグラム・イミテイトはSC158に完成して徹底的な試験に供された。もともと手作りに近いワンオフ機であるダグラムだが、予算に限りのあるソルティック社の自社開発機では、オリジナルの性能まで達することはできなかったようで、基本性能には10~20%の違いがある。過酷な試験のため各部の劣化・老朽化は激しく、交換部品もごくわずかしか生産されなかったために、ダグラム・イミテイトはスクラップ同然まで酷使されてしまった。本機はSC160、新型リニアガンの実験標的として破壊され、2年間の試験で膨大なデータを提供した。
だが時代は平穏期をむかえつつあった。コンバットアーマーはそもそも機甲部隊の役割を代替するものとして軍の縮小・人員減を目的として開発されたものであり、あまりに高級なシステムであるダグラムはコストに見合わなかったのだ。 コンバットアーマーも従来の機体を引き続き運用することになり、 ダグラム・イミテイトによって得られたデータはH8やH128の改良にフィードバックされることになる。